潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis)は、クローン病(CD:Crohn’s disease)と同じく腸に慢性的な炎症を引き起こす病気で、「炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)」と呼ばれる病気のひとつです。
この病気の原因はまだはっきり分かっていません。本来、身体を守るはずの免疫の働きに異常が起こり、大腸の粘膜が炎症を起こしてびらんや潰瘍ができると考えられています1)。
病変は、基本的に大腸のみに現れ、通常は直腸から始まり、大腸全体に広がることがあります。ただし、 直腸だけにとどまる場合や、大腸の左側のみに炎症が出る場合もあります2)。




参考文献
1)日本消化器病学会 炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020(改訂版第2版)
2)難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp(2025年2月1日閲覧)
潰瘍性大腸炎の初期の症状として、腹痛や下痢がみられたり、排便に粘液や血液が混じる(粘血便)ことがあります。
また、血便が出ることもあります。症状が悪化すると、1日に10回以上も下痢や血便が出るようになったり、 発熱や体重減少などの全身症状が現れることがあります1)。
この病気は、症状が良くなる(寛解)と悪くなる(再燃)を繰り返すのが特徴です。なかには、 長く症状が続く「慢性持続型」 や、急に症状が悪化する「劇症型」 になることもあります3)。

潰瘍性大腸炎では、上記の症状のほかにも合併症が起こることがあります。
合併症は、腸に関係する「腸管合併症」と腸以外の部分に影響する「腸管外合併症」の 2つに分けられます4)。

虹彩炎眼の虹彩という部分に炎症が起こる病気です。眼が赤く腫れて、光がまぶしく感じられたり、痛みがあったりします。多くの場合、腸の症状が悪化した時期に起こりますが、寛解期にも起きることがあります。
口内炎歯茎や舌に痛みのある浅い潰瘍ができる病気です。
関節炎関節炎は、腸の病気の合併症の中で最も多くみられるものです。腰や骨盤の関節に起こる体軸関節炎と、膝や足首などの関節に起こる末梢関節炎があります。潰瘍性大腸炎の症状の悪化と関係する場合もあれば、関係しない場合もあります。腸の症状が落ち着いていても、関節痛がある場合は、潰瘍性大腸炎に関連したものかどうか、よく調べる必要があります。
結節性紅斑足首やすねに多くみられる、赤く腫れて痛い症状です。多くは潰瘍性大腸炎の悪化と関係しています。
壊疽性膿皮症主に足に現れる重い皮膚の病変です。放置すると治りにくい深い潰瘍になり、皮膚移植が必要になる可能性もあるため、早期発見と早期治療が大切です。
4)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(」久松班): 令和5年度改訂版 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針
家族内で発症することがやや多いという報告があり、遺伝的な要因が関係している可能性も考えられています。
ただし、日本と海外では発症率に違いがあるため、はっきりとした結論は出ていません。
現在の研究では、病気の原因は一つではなく、遺伝的な素因に加え、食べ物や化学物質などの環境因子、腸内細菌、免疫の異常など、さまざまな要因が重なり合って発症する と考えられています。
そのため、完治する治療法はまだ確立されていません。
ですが、治療の選択肢は増えており、患者さんそれぞれに合った治療を続けることで病気とうまく付き合いながら過ごすことができます。

潰瘍性大腸炎は、以前は日本ではまれな病気とされていましたが、近年患者さんの数が増えており、 2021年時点で約22万人の方がこの病気と向き合っている と報告されています。
日本では特定疾患に指定されているため、医療受給者証や登録者証の交付件数から患者数を確認できます。
2014年末には18万人が登録 されており、毎年1万~1万5千人の患者さんが新たに増えていることが分かっています。
この病気は 男女差なく発症し、発症年齢は20~40代に多いという特徴があります。
また、潰瘍性大腸炎は特定のケースを除いて命に関わる病気ではなく、最近では一般の方と比べても生存率は変わらないと報告されています5)。
※2015年1月1日からは「指定難病」となっている。
5) Murakami Y, et al. J Gastroenterol. 2019; 54: 1070-7.

難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/(2025年2月1日閲覧)

難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/(2025年2月1日閲覧)
指定難病とは、患者数が日本国内で一定の割合(人口の0.1%程度)に満たないこと、そして診断基準が明確に定められていること、という2つの条件を満たした病気を指します。これらの病気は、厚生労働省によって指定されています。
指定難病の患者さんで、重症度などの条件を満たす場合は、医療費の助成を受けることができます。申請し、助成が認められると 「特定医療費(指定難病)受給者証」 が交付されます。
潰瘍性大腸炎の患者さんは、粘血便や血の混じった痢などの症状で病院を受診することが多いです。
診断はまず、現在の症状やこれまでの経過を詳しく聞く問診から始まります。そのうえで、感染性腸炎などの似た病気と区別するための検査を行います。
また、過敏性腸症候群との鑑別には便中カルプロテクチンの検査が役立つ とされています※1。
さらに、大腸の詳しい状態を確認するために大腸内視鏡検査(カメラで腸の様子を見る検査)を行い、 便検査※2や血液検査で炎症の程度を調べます。これらの検査結果を総合的に判断しながら慎重に診断 していきます。
※1 一部の検査薬は 炎症の状態を確認するためだけに使用されており、病気の診断には保険適用されていない場合があります。
※2 便検査:C. difficle抗原検査や便培養検査が含まれます。


潰瘍性大腸炎は、症状の重さや炎症が広がっている範囲によって、いくつかのタイプに分けられます。
大腸のどの部分まで炎症が広がっているかによって、分類されます。
活動期血便などの症状があり、内視鏡検査で大腸の粘膜に炎症や潰瘍が見られる状態です。
寛解期血便などの症状が消え、内視鏡検査でも炎症や潰瘍がなくなる状態です。腸の粘膜に血管が透けて見える「血管透見像」※3 が確認されることもあります。
※3 血管透見像:大腸の粘膜が正常な状態のとき、血管が透けて見えることを指します。炎症が強いと血管が見えなくなります。
初回発作型発症時には症状があったものの、その後は再燃せず落ち着いている場合。ただし、再燃寛解型に移行することもあります。
再燃寛解型病気の症状が良くなったり(寛解)、悪くなったり(再燃)を繰り返すタイプです。
慢性持続型発症から6ヵ月以上にわたり、血便や下痢などの症状が続く状態です。
急性劇症型非常に強い症状が急に現れるタイプで、中毒性巨大結腸症や腸に穴が開く(穿孔、せんこう)など、重い合併症を伴うこともあります。
潰瘍性大腸炎の症状(排便回数や血便の程度、頻脈、発熱)の強さや検査結果(貧血、赤沈※4、CRP)によって、軽症・中等症・重症の3つに分類されます。
軽症排便の回数が1日4回以下で、血液がわずかに付着することがあるものの、ほとんど見られず、発熱もなく、頻脈や貧血の症状もありません。
また、炎症の指標である赤沈やCRPの数値も正常です。
中等症軽症と重症の中間にあたる状態です。
重症1日に6回以上の排便があり、明らかな血便が認められます。さらに、37.5℃以上の発熱や90回/分以上の頻脈、Hb10g/dL以下の貧血があり、赤沈値が30mm/h以上、CRPが3.0mg/dL以上と炎症の数値も高くなります。
※4 赤沈(赤血球沈降速度、血沈、ESR):赤血球が試験管の中で沈む速さを測る検査で、体の中で炎症が起きているかどうかや、その程度を調べることができます。
参考文献
難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/(2025年2月1日閲覧) Matsuoka K, et al. J Gastroenterol. 2018; 53(3): 305-53.
Maaser C, et al. J Crohns Colitis. 2019; 13(2): 144-64. Lamb CA, et al. Gut. 2019; 68(Suppl 3): s1-s106.
Mayo内視鏡サブスコアは、潰瘍性大腸炎の炎症の程度を確認するための指標です。
内視鏡検査によって大腸の状態を観察し、炎症の強さを0から3の4段階で評価します。
このスコアは、治療の効果を確認したり、今後の病気の経過を予測するために役立つ指標です。
また、 治療の方針を決める際にも重要な判断材料になります。
潰瘍性大腸炎の治療には、大きく分けてお薬による内科的治療と手術による外科的治療がありますが、基本的には、お薬を使った内科的治療を行い、症状を落ち着かせることを目指します。
お薬の治療にはいくつかの種類がありますが、まずは 「5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤」 というお薬を使います。
症状の重さや病変の範囲、これまでのお薬の効き具合によっては、ステロイドや免疫を調整するお薬を組み合わせることもあります。
内科的治療は、寛解導入療法(症状を落ち着かせる治療)と寛解維持療法(落ち着いた状態を保つ治療)に分けられます。
寛解導入療法では、症状の軽い方は外来での5-ASA製剤を飲む治療が基本になります。
しかし、症状が強く出たり、発熱など全身の不調がある方は、入院して治療することもあります。
この場合は、心と体をしっかり休めながら、ステロイドや免疫のお薬、生物学的製剤(体の中の炎症を抑える最新のお薬)などを使います。
こうしたお薬で多くの方の症状は落ち着きますが、もし合併症がひどくなったり、お薬がうまく効かない場合には、手術を検討することもあります。
症状が落ち着いたら、再び悪化しないように寛解維持療法を行います。
これは、5-ASA製剤や免疫のお薬、生物学的製剤などを使いながら、症状が再び悪くならないようにする治療(再燃予防)です。
なお、治療に使うお薬には、飲むタイプ(内服薬)のほかに、点滴や皮下注射で投与するタイプもあります。
また、肛門から入れる坐剤や注腸剤などもあり、症状の重さや病変の範囲に合わせて、適切なお薬を組み合わせて治療します。

5-アミノサリチル酸(5-ASA)は、世界中で広く使われている潰瘍性大腸炎の治療薬です。
日本で使われているのは、サラゾスルファピリジン(サラゾピリン®)とメサラジンの2種類です。
サラゾピリン®は、5-ASAとスルファピリジンという2つの成分が結合した薬で、体の中で腸内の細菌によってこの2つに分解されます。
そして分解された5-ASAの成分が病気の部分に直接届いて効果を発揮します。
一方、メサラジンはサラゾピリン®の中の5-ASAだけを取り出した薬で、副作用が少ないと言われています。
サラゾピリン®は内服薬と肛門から使う坐剤があり、メサラジンは内服薬と注腸剤、坐剤があります。
どの薬を使うかは、症状の程度や広がり、今までの効果や副作用などを考えて、あなたに合った薬が選ばれます。
日本で使える内服薬のメサラジンには、ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®の3種類がありますが、いずれも5-ASAが確実に腸まで届くように工夫されています。
ペンタサ®は、時間とともに徐々に5-ASAを放出する製剤で、錠剤と顆粒がありますが、顆粒のほうが飲みやすい剤形です。
アサコール®は、小腸末端の場所でpHの変化に合わせて5-ASAが溶け出します。
リアルダ®は、さらに工夫されていて、まず大腸に到達するようにコーティングされ、そこで水分を吸って膨らみ、ゆっくり5-ASAを放出する特殊な機能があります。
サラゾピリン®とこの3種類のメサラジンは、それぞれ腸への届き方が工夫されていますが、効果には変わりありません。
サラゾピリン®を服用する際によくみられる副作用には、アレルギー症状(発疹など)、消化器症状、頭痛などがあります。
これらはサラゾピリン®に含まれるスルファピリジンの部分が原因だと考えられています。
そのほかにも、まれに肝臓の働きが悪くなったり、赤血球が壊れて貧血になったりすることもあるので、定期的に血液検査を受けることが大切です。
また、男性の場合、精子の数や精子の動きが悪くなり、不妊の原因になることがわかっています。
将来子供を持ちたいと思っている方は、主治医に相談しましょう。
一方、メサラジンは、スルファピリジンを含まないため、サラゾピリン®に比べて副作用が少ないといわれています。
ただし、まったく副作用がないわけではありません。
最近では、5-ASA製剤に対する過敏な反応として、発熱・発疹などのアレルギー症状、下痢や吐き気などの消化器症状、頭痛などが報告されています。
こうした副作用は、服用開始2週間以内に起こることが多く、服用している5-ASA製剤の種類によっても違う症状が出る可能性があります。
薬を飲み始めたときや種類を変えたときに、体調がいつもと違うと感じたら、すぐに主治医や薬剤師に相談してください。

1) Hiraoka S, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2021; 36: 137-43.
副腎皮質ステロイドは、強い炎症を抑える作用があるため、潰瘍性大腸炎の治療でも広く使われる大切なお薬です2)。
プレドニゾロンやベタメタゾンなどの種類があり、内服薬や注射剤、肛門から投与する坐薬や注腸薬などさまざまな投与方法があります。
これらのステロイド薬は、5-ASA製剤と並んで潰瘍性大腸炎の治療に重要な役割を果たしています。
プレドニゾロン(プレドニン®)は、強い炎症を抑える作用がとてもよく、5-ASA薬と並んで潰瘍性大腸炎の治療に重要なお薬です。
特に、症状が中等度以上の方で5-ASA薬だけでは効果が不十分な場合に、内服薬や点滴静脈注射で使われます。
関節炎や皮膚症状にも効果があります。
一方で、このお薬は強力な反面、長期間大量に使うとさまざまな副作用が起こりやすくなります。
そのため、症状が良くなってきたら少しずつ減らしていき、3ヵ月を目安に中止します。
急に止めると病状が悪化したり、副腎不全といった全身症状が出たりする可能性があるので、慎重に減量する必要があります。
また、ステロイド薬は5-ASA製剤ような長期的に寛解を維持する効果がないので、必要以上に長期に使用するべきではありません。
このお薬は強力な一方で、副作用も気になるところですが、適切に使えば非常に高い効果が得られる大切な治療薬です。
主治医と相談しながら、状態に合わせて使うことが大切です。
ブデソニド(コレチメント®)は、新しい種類の副腎皮質ステロイドで、潰瘍性大腸炎の寛解導入療法に使われます3)。
従来のステロイド薬であるプレドニゾロンなどは、体に吸収されると全身に作用してしまい、さまざまな副作用が問題でした。
しかし、コレチメント®は特殊な仕組みで、炎症のある腸の部分でだけ効果を発揮し、吸収された後はすぐに肝臓で分解されるため、全身への影響が少ないのが特徴です。
ただし、そのままでは腸の中まで有効成分であるブデソニドが届かないため、特殊な技術を使って、大腸全体に効果が広がるように工夫されています。
副腎皮質ステロイドを使うと、顔がむくんで丸くなる「ムーンフェイス」や、ニキビ、体重の増加、不眠などの症状が出ることがあります。
また、長く使い続けると、骨がもろくなる骨粗鬆症や糖尿病、感染症にかかりやすくなったり、白内障や緑内障のリスクが高くなることも知られています。

2)Ford AC, et al. Am J Gastroenterol. 2011; 106(4): 590-9; quiz 600.
3)Bressler B, et al. Gastroenterology. 2015; 148(5): 1035-58. e3.
潰瘍性大腸炎では免疫の働きが強すぎるため、それを抑える薬が使われます4)。
代表的なものが「チオプリン製剤」と呼ばれるお薬で、アザチオプリン(イムラン®、アザニン®)や6-メルカプトプリン(ロイケリン®)※1があります。
個人差はありますが、このお薬は効果が現れるまでに1~3ヵ月ほどかかります。
このお薬は、主にステロイド薬やシクロスポリン(サンディミュン®)、タクロリムス(プログラフ®)などで一度症状が良くなった後の維持療法に使われます。
また、ステロイド薬を減らしていく際や、抗TNF-α抗体製剤の効果が弱まるのを予防する目的でも使われます。
※1 ロイケリン®は潰瘍性大腸炎に対して保険適用になっていません。
このお薬を使うと、白血球減少、脱毛、肝臓機能障害、吐き気や嘔吐、発熱、膵炎などの副作用が出ることがあります。
最近の研究で、治療前に「NUDT15」という遺伝子検査を血液検査で調べておくことで、白血球減少や脱毛のリスクを予測できるようになりました5)。
その結果、投与量を調整したり、薬の使用を避けたりすることで、より安全に治療できるようになっています。
副作用は薬を休むことで回復します。
また、欧米では長期間の使用で悪性リンパ腫や皮膚がんのリスクが高まるという報告がありますが、日本では悪性リンパ腫のリスク上昇は確認されていません6)。

4)Timmer A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016; 2016(5): CD000478.
5)Kakuta Y, et al. Pharmacogenomics J. 2016; 16: 280-5.
6) Kobayashi T, et al. J Crohns Colitis. 2020; 14(5): 617-23.
カルシニューリン阻害剤というグループの薬には、注射剤のシクロスポリン(サンディミュン®)※2と内服薬のタクロリムス(プログラフ®)があります。
2つとも同じような仕組みで強力に炎症を抑える効果があり、ステロイド薬では症状が改善しない方に寛解導入で使われます7)。
プログラフ®は日本で発見されたお薬で、潰瘍性大腸炎の治療薬としても国内で初めて承認されました。
これらのお薬は、量が少ないと効果が得られず、多すぎると副作用が出やすくなるため、血液中の濃度を定期的に測定して、最適な量を見つけることが大切です。
特にプログラフ®は、服薬の量やタイミングを守ることが大切です。
また、グレープフルーツなどの一部の柑橘類と一緒に飲むと効果が強くなるので注意が必要です。
これらのお薬は、通常3ヵ月ほど使用し、その後は免疫調整薬や生物学的製剤で症状を安定させる治療を続けます。
副作用には腎臓の障害、しびれ、手の震えなどがあるため、使用中は定期的な血液検査や診察が必要です。
※2 サンディミュン®は潰瘍性大腸炎に対して保険適用になっていません。

7)Ogata H, et al. Gut. 2006; 55(9): 1255-62.
潰瘍性大腸炎の炎症には、白血球が作り出す「TNF-α」という物質が重要な役割を果たしています。
TNF-αの働きを抑える薬として抗TNF-α抗体製剤が使われます。
2002年にクローン病の治療薬として承認されたインフリキシマブ(レミケード®)は、2010年から潰瘍性大腸炎の治療にも使えるようになりました8)。
このお薬は、ステロイド薬などで十分な効果が得られない方に、点滴で2時間以上かけてゆっくり投与します。
投与スケジュールは、初回の点滴の2週間後、6週間後、以降8週ごとです。
その後、2013年にはアダリムマブ(ヒュミラ®)、2017年にはゴリムマブ(シンポニー®)が登場しました9)10)。
これらは初回、2週間後、それ以降は定期的に皮下注射をします。
また、医師の許可があれば患者さん自身で注射することも可能です。
これらの抗TNF-α抗体薬は、投与方法や投与スケジュールが異なるため、患者さんの状態に合わせて使い分けることができます。
ただし、治療を続けるうちに効果が弱くなる「二次無効」という現象が起こる可能性があり、レミケード®はその傾向が強いとされています。
その場合は、免疫調節薬との併用で、治療効果が長持ちすることが期待できます11)。
これらのお薬は免疫機能を強く抑制してしまうため、感染症のリスクが高まります。
そのため、投与前に感染症のチェックが必要です。
また、投与中や投与後に発疹、発熱、関節痛などの反応が出ることもあるので、注意深く経過を観察する必要があります。
また、B型肝炎ウイルスに感染したことがある方は、使用前に必ず主治医や薬剤師に相談してください。

8)Rutgeerts P, et al. N Engl J Med. 2005; 353: 2462-76.
9)Sandborn WJ, et al. Gastroenterology. 2012; 142: 257-65.
10)Sandborn WJ, et al. Gastroenterology. 2014; 146: 96-109.
11) Panaccione R GS, et al. J Crohns Colitis. 2011; 5: 13.
2018年から、関節リウマチの治療薬として使われていたトファシチニブ(ゼルヤンツ®)が、潰瘍性大腸炎の治療薬としても承認されました12)。
このお薬は、白血球の中にある「ヤヌスキナーゼ(JAK)」という重要な酵素の働きを抑え、サイトカインの産生を抑えることで効果を発揮します。
ステロイド薬などの従来の治療で十分な効果が得られなかった中等症から重症の方に経口で投与されます。
通常、1回10mg(2錠)を1日2回、8週間(さらに8週間続けることも)飲みます。
寛解維持療法では、1回5mg(1錠)を1日2回飲みますが、効果が弱まった人や過去に治療が難しかった人は、1回10mgを1日2回に増量できます。
2022年3月からは、新しいJAK阻害薬のフィルゴチニブ(ジセレカ®)も使えるようになりました13)。
通常は1回200mg(1錠)を1日1回飲み、寛解維持療法では100mgに減量できます。
さらに2022年9月からは、ウパダシチニブ(リンヴォック®)も使えるようになりました14)。
こちらは、1回45mgを1日1回8週間(さらに8週間続けることも)飲み、維持療法では15mgか30mgを1日1回飲みます。
JAK阻害薬は、寛解導入と維持の両方に使えるユニークな経口薬です。
これらのお薬は、免疫機能を抑えるため、感染症(特に帯状疱疹)のリスクが高まります。
また、血栓症のリスク因子がある方は慎重に使用する必要があります。
さらに、妊婦では使用できません。免疫調整薬との併用はジセレカ®のみ可能で、ほかの2剤は併用禁忌となっています。

12)Sandborn WJ, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1723-36.
13)Feagan BG, et al. Lancet. 2021; 397: 2372-84.
14) Danese S, et al. Lancet. 2022; 399: 2113-28.
2022年5月から、5-ASA薬による治療(寛解導入療法)で効果が不十分な中等症の潰瘍性大腸炎の患者さんに使える新しい経口薬、カロテグラストメチル(カログラ®)が承認されました15)。
炎症性腸疾患では、免疫の主役である白血球が腸に過剰に移動することで、免疫が暴走して炎症が起こっています。
このお薬はこの白血球の腸への移動を抑えることで治療効果を発揮します。
使用方法は、1回8錠を1日3回(合計24錠)内服し、最長6ヵ月まで服用できます。
再治療する場合は、少なくとも8週間の休薬期間が必要です。
このお薬は、原則として妊娠中や免疫調整薬との併用は禁忌となっています。
15)Matsuoka K, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2022; 7: 648-57.
2018年11月、中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(寛解導入療法)や維持療法に使用できる新しい生物学的製剤、ベドリズマブ(エンタイビオ®)が承認されました16)。
炎症性腸疾患の炎症は、免疫の働きを担う白血球が腸に集まり過ぎることで起こっています。
このお薬は、「α4β7インテグリン」という物質の働きを抑え、白血球が腸に移動するのを防ぐことで治療効果を発揮します。
このお薬は点滴で、初回(0週)、2週目、6週目に投与し、その後は8週間ごとに投与を続けます。
これはレミケード®と同じスケジュールですが、1回の点滴時間が30分で、レミケード®より短時間ですみます。
また、2023年3月からは、点滴を2回以上受けて効果があった場合は、2週間ごとの皮下注射に切り替えることができるようになりました17)。
このお薬は腸の免疫だけを抑えるため、他の免疫抑制薬と比べて感染症などの全身的な副作用が少ないとされています。
ただし、関節痛など腸以外の症状には効果が低い可能性があるため、治療前後で症状がないか確認することが大切です。

16)Feagan BG, et al. N Engl J Med. 2013; 369: 699-710.
17)Sandborn WJ, et al. Gastroenterology. 2020; 158: 562-72.
ウステキヌマブ(ステラーラ®)は、2011年から難治性の皮膚疾患である乾癬の治療薬として使われていましたが、2017年3月からはクローン病の治療にも使えるようになり、2020年3月から、既存の治療で効果が不十分な中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療にも使えるようになりました18)。
このお薬は、炎症や免疫に関係するインターロイキン(IL)-12やIL-23という物質に働きかけ、他の生物学的製剤とは異なる作用機序で症状を改善します。
導入療法では、初回は点滴で投与しますが、8週後の2回目投与からは皮下注射になります。その後は12週間隔で皮下注射を続けますが、効果が弱い場合は、間隔を8週間に短縮することができます。
このお薬は免疫の働きを抑えるため、肺炎などの感染症に注意が必要です。

18) Sands BE, et al. N Engl J Med. 2019; 381: 1201-14.
ミリキズマブ(オンボー®)は2023年3月から、リサンキズマブ(スキリージ®)は、2024年6月から、既存の治療で十分な効果が得られなかった中等症~重症の潰瘍性大腸炎の治療薬として使用できるようになりました19)20)。
さらに、2025年5月にはグセルクマブ(トレムフィア®)が同様の適応で使用できるようになりました21)。
これらのお薬は、炎症や免疫に深く関わるインターロイキン(IL)-23を標的とし、これまでの生物学的製剤とは異なる働き方をします。
オンボー®は導入療法では、1回300mgを4週間隔で3回(初回、4週、8週)点滴で投与します。
維持療法では、初回投与から12週後に1回200mgを4週間隔で皮下注射します。
また、医師の許可があれば患者さん自身で注射することも可能です。
スキリージ®は導入療法では1回1200mgを4週間隔で3回(初回、4週、8週)点滴投与し、維持療法では初回投与から12週後に1回180mgを8週間隔で皮下注射します。
状態に応じて1回360mgを8週間隔で投与することも可能ですが、自己注射はできません。
トレムフィア®は導入療法では1回200mgを初回、4週後、8週後に点滴投与し、維持療法では導入療法終了8週後から、1回100mgを8週間隔で皮下注射します。
状態に応じて導入療法終了4週以降に1回200mgを4週間隔で皮下注射することも可能ですが、自己注射はできません。
これらの新しい生物学的製剤も、免疫の働きを抑えるため、感染症(肺炎など)には注意が必要です。

19) D’Haens G, et al. N Engl J Med. 2023; 388: 2444‒55.
20) Loftus EV Jr, et al. Lancet. 2022; 399(10340): 2015-30.
21) Rubin DT, et al. Lancet. 2025; 405(10472): 33-49.
2025年3月から、これまでの治療で十分な効果が得られなかった中等症から重症の潰瘍性大腸炎の内服の治療薬としてオザニモド(ゼポジア®)が使えるようになりました22)。
このお薬は、炎症の原因となるリンパ節から腸への白血球の移動を阻害し、炎症部位の白血球数を減らすという、これまでの生物学的製剤とは違った働き方をします。
S1P受容体のサブタイプ1、5に選択的に作用する受容体調整薬です。
ゼポジア®は、服用開始時に心拍数が下がる可能性があるため、徐々に増量していきます。
1~4日目は1カプセル、5~7日目は2カプセル、8日目以降は4カプセルを1日1回経口で服用します。
このお薬は心筋梗塞、脳卒中などの既往歴、特定の心臓伝導障害、重度の睡眠時無呼吸症候群、妊婦では使用できません。
また、黄斑浮腫などの重篤な眼疾患のリスクもあるため、過去に同様の疾患がある方や、ぶどう膜炎や糖尿病の既往がある方は注意が必要です。
免疫を抑える作用もあるため、感染症(肺炎など)にも注意が必要です。
2025年6月にはエトラシモド(ベルスピティ®)が同様の適応で承認されました23)。
このお薬も1日1回経口で服用しますが、ゼポジア®との違いはS1P受容体のサブタイプ4にも作用することです。
22) Sandborn WJ, et al. N Engl J Med. 2021; 385: 1280-91.
23) Sandborn WJ, et al. Lancet. 2023; 401: 1159-71.
5-ASA製剤
日本では、潰瘍性大腸炎の治療に、サラゾスルファピリジンの坐剤やメサラジンの坐剤・注腸剤が使用できます。
この5-ASAという局所療法の特徴は、症状を抑える「寛解導入」と、再発を防ぐ「寛解維持」の両方に有効ということです1、2)。
特に、メサラジンの坐剤や注腸剤は、寛解導入では1日1個の使用で十分な効果が得られます。
寛解維持では、毎日使うとより高い効果が期待できますが、長期にわたって肛門から薬を使い続けるのは大変です。
そのため、2日に1回や3日に1回、あるいは週末の2日間だけ使う間歇投与でも、寛解を維持できることが分かっています。
投与回数については、主治医と相談しながら、患者さんの状態や生活に合わせて決めていくことが大切です。

副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイドを局所的に使う薬は、血が混ざった下痢などの活動期の症状がある時に使われます3)。
経口のステロイド薬と同じように、局所ステロイド薬にも少量ながらステロイド特有の副作用が現れる可能性があります。
また、寛解を長期的に維持する効果も十分ではないため、基本的には長期使用される薬ではありません。
日本で使えるのは、ベタメタゾンの坐剤やベタメタゾンとプレドニゾロンの注腸薬、そしてブデソニドの注腸フォーム剤です。
これらは作用機序は同じですが、プレドニゾロンの注腸薬はベタメタゾンよりも全身への吸収が少ないため、副作用が少ないと考えられています。
また、ブデソニドは局所の炎症を抑える一方で、体内に入っても肝臓で素早く分解されるため、全身への影響も少ない特徴があります4)。

1)Ford AC, et al. Am J Gastroenterol. 2012; 107(2): 167-76. 2)Ford AC, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2012; 10(5): 513-9. 3)Dignass A, et al. J Crohns Colitis. 2012; 6(10): 991-1030.
4)Naganuma M, et al. J Gastroenterol. 2018; 53(4): 494-506.
福田 知広
潰瘍性大腸炎は、白血球という血液の成分が腸の粘膜で過剰に働きすぎてしまい、炎症を悪化させたり、長引かせたりしていると考えられています。
血球成分除去療法は、この過剰に働いている白血球を血液から取り除くことで、炎症を抑える治療法です。
この治療は、一度にすべての血液を処理するわけではないため、何回か繰り返して行う必要があります。
この血球成分療法には、現在、単球・顆粒球除去療法(GMA)が使用できる。
<治療の流れ>
効果が認められた場合は、最大で10回まで治療を行うことができます。
血球成分除去療法は、ステロイド治療で十分な効果が得られない重症や難治性の活動期に行われる治療法です1)。
この治療法には、寛解導入までの期間を短縮するために治療頻度を増やす「Intensive治療」 などがあり、2010年から可能となっています。
ステロイドなどの免疫を抑える治療薬と比べると副作用が少ない のが特徴です。
ただし、すべての患者さんに有効なわけではなく、期待した効果が得られない場合は、次の治療法や手術を検討することになります。
また、2022年1月から「寛解維持療法」としての使用が認められ、2週間に1回を限度として48週間続けることが可能になりました。

血球成分とは血液は血漿といわれる液体成分と赤血球、白血球、血小板などの血球成分から構成されています。
白血球には、さらに顆粒球(好塩基球、好酸球、好中球)とリンパ球、単球の3種類があります。
血液の成分のうち、白血球の中でも単球と顆粒球を主に取り除くことで、炎症を抑える治療を行なえるのがGMAの特徴です。
潰瘍性大腸炎の患者さんの多くは、 薬による治療 などで症状をコントロールすることができます。
ただし、病気の状態によっては外科的な手術が必要になることもあります。
潰瘍性大腸炎は炎症が大腸に限られている病気なので、大腸をすべて摘出する手術によって完治が期待できることがあります。
手術の方法について、以前は肛門を温存せず人工肛門を作る方法が一般的でした(図1)。
しかし、現在では肛門をできるだけ残すように工夫された術式が主に行われています。
たとえば、炎症が起こる可能性のある直腸粘膜を極力取り除いたうえで肛門を温存する方法(図3)や、 肛門の機能を保つために直腸の一部(肛門管)を残す方法(図4)などです。これらの手術では、大腸を切除したあと 小腸で便をためる袋(回腸嚢)を作り、肛門(管)につなげることになります。
「大腸をすべて切除する」と聞くと、不安を感じる方もいると思います。
確かに大がかりな手術であり、術後は排便に関して日常生活の調整が必要になることもあります。
ですが、手術によってこれまで制限されていた食事や生活習慣の悩みから解放されることが期待できます。
腹痛などの症状がなくなり、家庭生活や仕事、趣味、旅行などが自由に楽しめるようになるメリットもあります。
手術をすることになった場合でも、決して悲観的にならず、前向きに考えることが大切です。
不安がある場合は、すでに手術を受けた方の経験談を聞いてみるのもよいかもしれません。

宮谷 侑佑松林 真央畑 妃咲
潰瘍性大腸炎の活動期では、食事療法だけで症状を治すことはできません。
ただ、お腹の炎症が強くて十分に食事がとれない場合は、点滴や栄養剤を使って栄養を補うことがあります。
風邪をひいたときに無理をせずしっかり休むのと同じように、お腹の調子が悪いときは 暴飲暴食を避けて、消化に良い食事を摂り、腸に負担をかけないようにしましょう。
寛解期では、 食事療法による再燃予防の効果はないとされています。
ただし、アルコール、炭酸飲料、カフェイン、香辛料などの刺激の強いものを摂ることで症状が悪化すると感じる方もいますが、それが病気の再燃につながるかどうかは科学的に証明されていません1)。
また、潰瘍性大腸炎の炎症がなくてもお腹の張りや痛みが気になる場合は、低FODMAP食※で症状が改善する可能性があると報告されています2)。
一番大切なのは、服薬や治療をきちんと続けることです。
そのうえで、美味しく健康的な食事を楽しみながら、無理なく過ごしていきましょう。
1)Limketkai BN, et al. Cochrane Database of Syst Rev. 2019; 8: 2.
2)Cox SR, et al. Gastroenterology. 2020; 158(1): 176-88.
FODMAPとは、Fermentable(発酵性の)、Oligosaccharides(オリゴ糖)、Disaccharides(二糖類)、Monosaccharides(単糖類)、And Polyols(ポリオール)の頭文字をとった言葉です。
小腸で吸収されにくい発酵性の糖質のことで、摂取しすぎると腸内のバランスが乱れ、お腹の張りや腹痛などの症状を起こすことがあります。
そのためFODMAPの多く含まれる食事を避けることで、症状を改善させることができるとして、最近、IBS(過敏性腸症候群)の患者さんの食事療法として低FODMAP食が注目されるようになりました。

