先進治療について

炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)である潰瘍性大腸炎とクローン病の原因は、完全に明らかとはなっておりません。従って、いまだ根本治療はありませんが、近年、病気の状態に応じた適切な治療法の進歩により、多くの患者さんが通常の生活を送れるようになってきました。潰瘍性大腸炎とクローン病では実際の症状や治療法も少し異なるところがありますが、原則は腸管の炎症反応を抑制することで、炎症を鎮静化する寛解導入療法および鎮静化後に再燃をふせぐ寛解維持療法と分けて治療していくこととなります。

多くの治療薬や方法がありますが、難治性の潰瘍性大腸炎に対してはタクロリムスや白血球除去療法が使用されるようになっています。一方、潰瘍性大腸炎とクローン病両疾患の治療におけるに革命的な進歩は、抗TNFα抗体製剤インフリキシマブとアダリムマブの登場です。その劇的な効果は疾患概念や治療戦略を大きく変えました。抗TNFα抗体製剤の成功はそれに続く生物学的製剤の開発を後押しし、抗IL-12p40抗体、抗α4抗体、抗α4β7抗体などが開発され海外では一部すでに臨床応用されています。さらにα4インテグリン阻害剤、CCR9阻害剤などの経口低分子化合物の開発も進んでいます。このように今後は難治性の患者さんに対しては複数の選択肢が存在することになりますが、各治療の使い分けや適応症例については充分な知識と経験に基づいていかねばなりません。

当センターの先進治療とは、ステロイドをはじめ既存の治療薬をいかにうまく使用していくか、抗TNFα抗体製剤の無効な患者さんや徐々に効果の減弱する患者さんにどのように対応していくか、外科治療をどこで考えるかなど、患者さんとの充分な話し合いに基づいての最良な治療のことです。いまや治療目標は、短期的な症状の改善のみでなく患者さんの社会生活までも考慮した長期予後の改善におかれており、そのためには最新の治療法や従来からの内科的治療、内視鏡的治療、外科的治療をいかに組み合わせていくかが重要となります。これが先進治療であり、必ずしも新しい治療のみを言う訳ではありません。近い将来、個々の患者さんで個別化された最適な治療法が選択され、最終的には再燃予防、発症予防が確立されなければなりません。

当センターでは、正確な診断と的確な病態の把握をもとに、上述した最新の治療までを加味して、個々の患者さんでの最も適切な治療を心がけています。知識と経験の豊富な専門医とともに、看護師さん・薬剤師さん・栄養士さんなどが一丸となって進めております。現状で考えうる限りの最適でかつ先進的な治療をしております。